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全染色体検査に関する概要とその展望

従来の新型出生前診断で行われてきた、3種類の常染色体のみを検査する従来の検査方法に対し、全染色体検査では全ての常染色体に加え性染色体まで検査する診断方法です。
今回の記事ではそんな全染色体検査に関して事例を交えてご紹介します。

はじめに

出生前診断において3種類の常染色体のみを検査する従来の検査ではなく、性染色体を含む全ての常染色体を検査する全染色体検査。

今回の記事では、そんな全染色体検査に関する内容について解説していきたいと思います。

全染色体検査の基本的な情報や、いくつかの無認可施設が実施している全染色体検査を検査に組み込んだ出生前診断を例として挙げて深堀りしていきます。

他にも、全染色体検査を日本で受けることができるクリニックとその費用についても言及しますので、出生前診断を受けるかどうか悩んでいる方の助けとなれば幸いです。

全染色体検査とは

全染色体検査とは、出生前診断において実施することが出来る検査手段の一つで、常染色体と呼ばれる1番~22番常染色体および性染色体を含むすべての常染色体の数の異常を検査する、近年行われるようになってきた診断方法です。

通常、出生前検査においては13、18、21トリソミーのみの性染色体を検査していました。

この理由はこれらの常染色体は完全なトリソミーでも生存への悪影響が比較的少なく、出生率もある程度あるのに対し、それ以外の常染色体では異常があった場合、生存に対する希望が低くなるためです。

しかも、13、18、21番常染色体以外の染色体に至っては異常が生じることはすなわち死を意味するので、そもそも検査する必要がないと言うのが世界の出生前検査におけるガイドラインになっていました。

その一方で、従来の出生前診断では上記のように3種類の常染色体に関する情報しか得ることが出来ず、それらに異常がなかったから安心していたら、性染色体に異常があったと言う事例も報告されています。

そういった理由から必然的に全ての常染色体に対する検査の必要性が叫ばれるようになったことと、「そもそも選択肢も沢山合った方がいい」と言う利用者側の声が後押しして、全染色体検査を行うクリニックが増加してきています。

全染色体検査を行った出生前診断の特徴

現在、全染色体検査は認可施設では許可されていません。

受けることができるのはベリナタ社が提供している検査の他に、クーパーゲノミクス社のSerenity24などがあり、日本国内においては2020年6月19日よりHuman Investorがクリニック様より受託する形で実施しています。

全染色体検査では1番から22番目のすべての常染色体に異常があるかどうか調べることができ、それに加え、性別判定モノソミーX(ターナー症候群)などの性染色体異常についても検査することが可能となっています。

そのため、日本において受けられる新型出生前検査の中では最新の部類に入る出生前検査であるとも言えます。

全染色体検査において、採血は1回の来院のみで行うことが可能で、検査結果が出るまでの平均日数は10日前後と非常に短期間で検査が行えるため、時間的・体力的な負担が少ないというメリットがあります。

なお、全染色体検査は単胎児の場合のみ行うことができ、胎児が双子以上であった場合は通常の13、18、21常染色体の異性数とY常染色体に関する検査のみが実施可能です。

無認可施設はより幅広い層が受けることが可能

認可施設の21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーのみを検査する新型出生前診断は、診察費用と検査費用が別費用となったり遺伝カウンセリングが必須だったりするため総合的なコストが嵩んでしまうのがネックとなっていました。

また、認可施設の新型出生前診断では妊娠後10週から18週かつ35歳以上などの妊婦しか検査を受けられないなど、厳しい条件もあるのも問題点のひとつです。

現在は年齢に関する条件は認可施設でも大幅に緩和する施設が増えており、妊娠10週以上であれば誰でも検査を受けることが可能となります。

全染色体を検査するための費用は、プランによっても上下しますが日本ですと20万円前後が相場となっています。

以下が、2020年7月現在に日本で、全染色体検査を実施しているクリニックと、その費用の一例です。

所在地に関してはあくまでも代表的な場所のみを記載しています。

表の店舗以外にも、全国で幅広く各医院が展開しているクリニックで全染色体検査を受けることが可能ですで、お住まいの地域にあるかどうか問い合わせをしてみてください。

<全染色体検査を受けることができる施設一例>

クリニック名 所在地 全染色体検査を受けた際にかかる費用
NIPT japan 東京都千代田区など 16~18万円
平石クリニック 東京都港区六本木など 21万円
ヒロクリニック 東京都八重洲など 18万円
ラジュボークリニック 東京都中央区銀座など 17万円

全染色体検査の実施は継続されるべきか否か

ここでは全染色体検査の意義や是非について考察していきたいと思います。

実は全染色体検査に関しては欧米及び日本でも賛否の意見が生じているのです。

先ほどもご説明した通り、常染色体の中には異常があると出産まで至らないものがほとんどなため、出産に至り発症数も多いトリソミ ー21、18、13と性染色体に関する異常を調べるのみで十分なのではという従来の規定に則ったもの。

とは言え、母親には自身の赤ん坊のことについて知る権利がありますので、全染色体検査によりあらゆる情報を知った上で最終的な判断をするのはある意味では、当然のことなのではないでしょうか(あえてここでは中絶選択の是非は問いません)。

中絶問題に関する倫理的な側面に関しては、以下の記事で言及していますので、そちらをご参照ください。

現実に欧米では様々な検査会社で全染色体検査が実施されていますので、胎児の情報を早い段階で知りたいと言うニーズは確実にあると言えます。

21、18、13番染色体から異常が見つかる確率に比べ、それ以外の染色体から陽性が出る比率は低めにあります。

しかし、とある統計調査によると絨毛生検における全染色体の陽性率は0.56%、つまり2000人に1人の確率で陽性が見つかっているのです。

これを踏まえると、胎児の状態をいち早く「知るため」にも、全ての染色体を検査することは必要なことなのではないでしょうか。

おわりに

21、18、13番染色体以外の常染色体に異常が合った場合でも胎児が必ずしも死に至る訳ではなく、それを抱えたまま出産に至るケースはやはり存在します。

それを踏まえるのであれば、より包括的に常染色体を検査できる全染色体検査が普及していくことは、あらゆる母子にとって望ましいことなのではないでしょうか。

2020年7月現在、前述のように日本においてはこれまでアメリカのベリナタ社が行っていた検査を、国内の東京衛生検査所が行うようになりました。

これにより、これまで検査の際に発生していた輸送に関する制約やリスク、時間や資金面でのコストカットに成功しています。

このように、全染色体検査に絡む費用や年齢制限に関する問題も徐々に緩和されつつあるのです。

ひいては、より安全かつ精確で、低コストな出生前診断が普及していくことを筆者は願っています。