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高ゴナドトロピン症とは

この記事の概要

高ゴナドトロピン症(Hypergonadotropic Hypogonadism)は、ゴナドトロピン(FSHおよびLH、性腺刺激ホルモン)が血中で高いレベルにあるにもかかわらず、性腺(卵巣や精巣)の機能が低下している状態を指します。これは、性腺がゴナドトロピンの信号に反応せず、適切な性ホルモン(エストロゲンやテストステロン)を分泌できないために生じます。高ゴナドトロピン症は、性腺機能不全の原因の一つであり、主に原発性性腺機能低下症として知られています。

高ゴナドトロピン症とは

1. 高ゴナドトロピン症の特徴

高ゴナドトロピン症の主な特徴は、性腺機能が低下し、通常の性ホルモン分泌が行われないことです。これにより、男性ではテストステロンの欠乏、女性ではエストロゲンの欠乏が生じ、以下のような症状が現れます。

男性の症状

  • 精子形成不全:精子の生成が不十分で、不妊の原因となることがあります。
  • テストステロン欠乏:二次性徴の遅延(声変わりや筋肉量の増加の遅れ)、筋力低下、性欲減退、疲労感など。
  • 小睾丸症(小型精巣):精巣が小さくなることがよく見られます。

女性の症状

  • 原発性卵巣機能不全症(POI):40歳未満で卵巣機能が低下し、無月経や不妊、早期閉経が発生します。
  • エストロゲン欠乏:月経不順や無月経、ほてり、骨密度低下、性欲低下など。
  • 不妊:排卵が停止し、妊娠が困難になります。

2. 原因

高ゴナドトロピン症は、性腺が適切に発達または機能しないことが主な原因であり、これには遺伝的要因環境要因が関与します。以下に、主な原因とそれに関連する遺伝子について説明します。

2.1 遺伝的要因

  1. ターナー症候群(女性)
  • X染色体の異常(X染色体モノソミーや欠失)が原因で、卵巣が未発達または不完全に発達し、エストロゲンを十分に分泌できなくなります。その結果、高ゴナドトロピン症が発生します。ターナー症候群は、低身長、原発性無月経、性発達の遅延を引き起こします。
  1. クラインフェルター症候群(男性)
  • 47,XXYという異常な染色体構成を持つ男性で、精巣が正常に発達せず、テストステロンが十分に分泌されないため、高ゴナドトロピン症が発生します。これは男性において最も一般的な性染色体異常で、精子形成不全や男性の二次性徴発達の遅れを引き起こします。
  1. フラジャイルX症候群の前変異(FMR1遺伝子)(女性)
  • フラジャイルX症候群の前変異を持つ女性では、原発性卵巣機能不全症(POI)が発生しやすくなります。このため、エストロゲンの低下が見られ、高ゴナドトロピン症に繋がります。
  1. SF1(NR5A1)遺伝子変異
  • SF1(NR5A1)遺伝子は、性腺や副腎の発達に重要な役割を果たしています。この遺伝子の変異があると、性腺の発育が不十分になり、高ゴナドトロピン症を引き起こすことがあります。
  1. FSHR遺伝子(卵胞刺激ホルモン受容体)
  • FSHR遺伝子の異常は、ゴナドトロピンが卵巣や精巣で適切に作用できないことを意味します。このため、FSHのレベルが高いにもかかわらず、性腺はホルモンを十分に産生できず、高ゴナドトロピン症が発生します。
  1. LH受容体(LHCGR)遺伝子
  • LHCGR遺伝子は、黄体形成ホルモン(LH)やヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の受容体をコードしており、LH受容体に異常がある場合、精巣や卵巣の応答が不十分となり、ゴナドトロピンレベルが上昇する一方で性ホルモンの産生が低下します。

2.2 環境要因

  • 化学療法や放射線療法
  • がん治療の一環として行われる化学療法や放射線療法は、精巣や卵巣にダメージを与え、高ゴナドトロピン症を引き起こすことがあります。
  • 感染症
  • たとえば、おたふく風邪(流行性耳下腺炎)による精巣炎卵巣炎が、精巣や卵巣にダメージを与えることで、高ゴナドトロピン症に繋がることがあります。
診察中の女医

3. 診断

高ゴナドトロピン症は、血中の性ホルモンやゴナドトロピンのレベルを測定することで診断されます。主要な診断手法は以下の通りです。

  1. ホルモン検査
  • ゴナドトロピン(FSH、LH):FSHやLHの血中レベルが高く、性ホルモン(エストロゲン、テストステロン)のレベルが低い場合、高ゴナドトロピン症が疑われます。
  • エストロゲン(女性)やテストステロン(男性)のレベルを測定します。
  1. 遺伝子検査
  • X染色体異常(ターナー症候群など)の有無を確認するため、カリオタイプ解析が行われます。
  • FMR1遺伝子検査では、フラジャイルX症候群の前変異を持つ女性がPOIに関連するかを調べます。
  • SF1、FSHR、LHCGRなどの遺伝子検査も行われ、特定の遺伝子変異が性腺機能に影響を与えているかどうかを確認します。
  1. 画像診断
  • 超音波検査MRIを用いて、性腺のサイズや形状を評価し、発育不全や異常がないか確認します。

4. 治療

高ゴナドトロピン症の治療は、根本的な原因に基づいて行われ、性ホルモンの補充が中心となります。また、患者の年齢、性別、将来的な家族計画によって治療法が異なります。

4.1 ホルモン補充療法(HRT)

  • 女性の場合:エストロゲンやプロゲステロンのホルモン補充療法(HRT)が行われ、更年期症状や骨粗鬆症のリスクを軽減します。
  • 男性の場合:テストステロン補充療法(TRT)が行われ、二次性徴の発達、筋肉量の維持、性欲の向上などに寄与します。

4.2 生殖補助医療

  • 女性の不妊治療:排卵誘発剤や体外受

精(IVF)などの生殖補助技術が使用される場合があります。卵子提供も選択肢となることがあります。

  • 男性の不妊治療:精子形成が不十分な場合には、精子の採取や人工授精(IUI)、体外受精などの技術が用いられます。

4.3 カウンセリング

  • 精神的・感情的なサポートも重要です。生殖機能の喪失に対する心理的なサポートや家族計画に関するカウンセリングが推奨されます。

まとめ

高ゴナドトロピン症(Hypergonadotropic Hypogonadism)は、性腺(卵巣や精巣)が機能不全を起こし、性ホルモンの分泌が低下する疾患であり、主にターナー症候群やクラインフェルター症候群、フラジャイルX症候群などの遺伝的要因が関与しています。治療には、ホルモン補充療法や生殖補助医療があり、患者個別の症状やライフプランに基づいて治療法を選択することが重要です。