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国際社会におけるNIPTの現状とその展望

国際社会におけるNIPTの現状とその展望

2011年に香港で臨床実験が開始されて以来加速度的に世界に広まったNIPTは、母体からの採血という診断方法を取るためほとんど母体および胎児に影響がなく、注目が高まっているのです。

はじめに

従来、胎児の染色体異常や遺伝子異常などを調べるための出産前検査として、絨毛検査や羊水検査が行われてきました。

しかしこれらの侵入的な検査方法は、胎児の流産や母体が合併症状を発症するというリスクも僅かながらに存在するというデメリットがあります。

その一方で2011年に香港で臨床実験が開始されて以来加速度的に世界に広まったNIPTは、母体からの採血という診断方法を取るためほとんど母体および胎児に影響がなく、注目が高まっているのです。

この記事ではそんなNIPTの国際社会からみた商業的な問題点や倫理的な課題といったことについてご紹介していきます。

商業化されるNIPT

NIPTは2011年後半には既にアメリカおよび西ヨーロッパなどで導入され、中東、南アメリカ、南と東南アジアなどで急速に導入のための実験が行われてきており、その商業的な利益は2012年の時点で2億2000万米ドルを記録しており、この記事を執筆しています2019年には36億2000万米ドルに上るだろうとのことです。

しかし、広く普及して来ている一方でNIPT検査にかかる費用は従来の侵入性検査の費用と比べると依然として高額なままであり、米国などにおいても無保険者が払うには負担が大きすぎるのが問題となっています。

中国においてはNIPTにかかる費用は米ドル換算で457〜587ドルである一方、従来の侵入性検査である羊水検査は約326ドルで実地されており、ブラジルではNIPT検査が米ドル換算1492ドル(日本円:約16万円)、羊水検査426ドル(日本円:約4万6000円)とのことです。

これら二つの国は民間保険や州保険にNIPTが適用されないという問題も抱えていますので、利用者は自己負担で検査費用を全額支払う必要があるというのが現状です。

NIPTと発展途上国

LMIC(後発発展途上国)においては、高所得国に比べNIPTの普及率の地域格差が大きくなっています。

これはそもそもNIPTの情報にアクセスできるだけの教育レベル、利用できるだけの資産を兼ね備えているのが一部の上流階級および中流階級だけに限られてしまうため、都市部のスラムおよび地方部に住む住民はその地域格差からNIPT検査を受けられる可能性が著しく下がるのです。

また、発展途上国では遺伝性疾患を抱えて誕生してくる胎児の発生率が高所得国に比べて低いため、そもそも出生前検査が重視されていないという側面もあります。

これは発展途上国の女性は若くに出産をする割合が高いためであり、2006年時点ではインドにおいては35歳以上の女性の出産率は2〜5%である一方、アメリカでは約8%となっていますが、これには例外があり、中東諸国は35歳以上の女性の出生率も高く、また近親婚も比較的高い割合であるため、遺伝性疾患の発生率も高くなっているとのことです。

しかしながら、これらの発展途上国も経済成長をするにつれ、初産の平均年齢が上がって来ますので、それに伴い出産前検査の普及率を高める必要に迫られるのではないでしょうか。

また、多くの発展途上国においては宗教的、文化的な側面から、多くの女性が妊娠を神聖なものとして考えるため、従来の侵入的検査を拒否する事例も散見されましたが、NIPTの導入によって出産前検査率の実地の割合の増加も期待されています。

NIPTの倫理的な問題

NIPTは、多くの後発発展途上国においては民間あるいは社会的な保険が適用されるケースが存在しない場合も多々あります。

これは高所得層の過程は安全で正確な出生前検査を実地できる一方で、低所得層の家庭は従来のリスクのある侵襲性検査を行うか、あるいは出生前検査そのものを行わないという選択肢が増えてくることを懸念されているのです。

これにより、高所得層の子供はより健康児である確率が高くなり、低所得層の子供は遺伝性疾患などの症状を発症して生まれてくる確率が上がるため、これらの階層の間でより格差が拡大する恐れがあります。

また、一部のLMICではハンディキャップを背負った子供誕生は負担と見なされることも度々あることが、NIPTの抱える倫理的な問題点の一つです。

中国においては、2003年に行われたインタビュー調査では、調査対象の女性のうち約83%が「(子供が遺伝的疾患を持つと診断されたら)中絶を選択する」と回答しました。

これらが意味するのはNIPTの普及でより高度な出生前検査が可能になると中絶を希望する女性が増え、それに伴い中絶自体が禁止されている地域では違法で、リスクのある中絶方法をとる女性も増えるということが指摘されています。

また、社会的に障がいを持った人々がよりマイノリティーになることで、それらの人々に配慮した制度やサービスの実地が疎かになることも懸念されるのです。

国際的なNIPT普及のための今後の課題

これはどの国にも言えることですが、NIPTの技術を習得しようとする医師が増えるにつれ、従来の侵入性の出産前検査の技術を高水準で扱える医師が減るのではとの懸念もあり、先ほども述べた所得とNIPT検査にかかる費用との兼ね合いから、低所得帯の家庭にはより厳しい状況になる可能性も考えられます。

侵襲性検査の実践数の減少に関して言及しますと、実際に米国のある診療所からはNIPTテストの導入以後に従来の羊水検査や絨毛検査が行われた回数は50%も減少したとの報告が上がっています。これによってますます侵襲性検査の品質が損なわれてしまうと、それを行う患者の流産のリスクも相対的に上がってしまうのです。

さらに、これらのことに加え、先ほども述べたように検査結果次第で患者が性選択などを含む中絶などを検討する可能性もあるということを考慮すると、NIPTを行う臨床医は倫理的な観点からも事前に十分なカウンセリングを実地することが必要となってきます。

遺伝カウンセラーの数は(特に低所得国において)不足しており、NIPTの技術的な普及だけでなく適切な遺伝リテラシーを持った医師の育成を同時に進行することを考えなければなりません。

現状のNIPTの費用や遺伝カウンセラーの教育にかかる予算を鑑みると、低所得帯の家庭も含めて適切な出産前検査を受けるためには、NIPTを低価格で実地するためのさらなる技術革新を推し進める一方で、従来の侵入的検査の水準も保っておく必要があると言えるのではないでしょうか。

とは言え、LMICにおいてはインフラを先に整える必要があることを考慮すると各政府にそれだけの費用の余裕があるとは考えにくいため、NIPTを公衆衛生の一部門に含めるということも議論されています。

参考文献