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非翻訳性RNAは合成しやすく分解しやすい生体内の便利屋

核型の記載法

非翻訳性RNAは合成しやすく分解しやすい生体内の便利屋非翻訳性RNAは合成しやすく分解しやすい生体内の便利屋についての記事です。
この記事では、RNAとは何かに触れながら、翻訳性RNAと非翻訳性RNAの違い、さらに非翻訳性RNAがどういう役割を担っているのかについてご紹介をします。

RNAとDNAの違い

まず、RNAとは何かについてご説明します。似た物質にDNAがありますが、この2つは何が異なるのでしょうか。

DNAはデオキシリボ核酸、RNAはリボ核酸の略で、名前のとおり構造が異なっています。またDNAはアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)ですが、RNAはチミンではなくウラシル(U)が入ります。

では、役割上はどのような違いがあるでしょうか。二つの役割を要約すると、以下のようになります。

DNAの役割:核内で遺伝情報を持っている
RNAの役割:遺伝情報を用途に応じて利用し、必要な時に合成・分解される

このように、名前も構造も似ておりますが、生体内での役割は大きく異なっています。

また、RNAには多くの種類がありますので、それぞれのRNAの役割について、詳しくご紹介します。

タンパク質をコードする、翻訳性RNA 

翻訳性RNAとは、コーディングRNAとも呼び、タンパク質を「コード」するRNAを指します。コードとは、塩基配列のうち3つの塩基が1セットとなって、1つのアミノ酸を指定することです。つまり、アミノ酸を作り出す遺伝暗号を持つRNAが、翻訳性RNAということになります。

例えばRNAの配列がAUGであればメチオニン、CCGであればグリシンと言うアミノ酸をコードし、このアミノ酸がいくつも連なったのがタンパク質となり、我々の体を構成する成分になるのです。

翻訳性RNAは1つだけで、mRNA(伝令RNA、メッセンジャーRNA)です。

mRNA(メッセンジャーRNA、伝令RNA)

mRNAは、その名のとおり遺伝情報を伝達する役割を持ったRNAです。

核内にあるDNAのヌクレオチド鎖を元に、DNAの遺伝情報を写し取ったRNAがRNAポリメラーゼ(RNA合成酵素)によって作られます。これがmRNAで、遺伝情報を写し取ることを「転写」と呼びます。転写されたmRNAは、3つの塩基を1組としてアミノ酸の種類を指定する遺伝暗号(3つ組み暗号、コードン)になっています。この3つ組み暗号をもとにタンパク質を合成することを「翻訳」と言います。

なお、mRNAがDNAの遺伝情報を写し取る部分は、ヒトゲノム全体の2%程度しかないことがわかっています。つまりゲノムDNAのごくごく一部がタンパク質となるのです。それ以外の部分の機能は多くが明らかにされていませんでしたが、1990年代後期のmiRNA(マイクロRNA)の発見を皮切りに、ヒトゲノムのタンパク質がコードされない部分からさまざまなRNA(非コードRNA)が合成されていることが発見され、生体内において非常に大切な役割を持っていることがわかりました。

便利に使われる非翻訳性RNA

非翻訳性RNAとは、3つ組み暗号を持たないRNAのことで、ncRNA(ノンコーディングRNA)とも書きます。名前のとおりタンパク質をコードせず、つまり翻訳されずに活躍するRNAのことです。

代表格であるtRNA、rRNAをはじめとして、多種多様な非翻訳性RNAが見つかっています。

tRNA(トランスファーRNA)

tRNAは転移RNAまたは運搬RNAとも呼ばれており、mRNAからアミノ酸が作られるときに細胞質中にあるアミノ酸をリボソームへ運ぶ役割をしています。tRNAはmRNAのコードンに対して相補的な配列を持っており、また特定のアミノ酸と結合しています。つまりtRNAがmRNA上のコードンと結合することで、mRNAの遺伝暗号がアミノ酸に「翻訳」されるのです。合成されたアミノ酸はペプチド結合によって繋がり、我々の体の主成分でもあるタンパク質を作り出します。

rRNA(リボソームRNA)

リボソームRNAは細胞や血液内などにもっとも多く、複数の染色体上に存在しており、タンパク質とともにリボソームを構成している成分です。翻訳によってタンパク質が合成される時に、rRNAはmRNA上でコドンを解読し、mRNAの配列と相補的な配列を持つtRNAを結合させる役割を担っています。

なお、発現量が多いため18S rRNAは遺伝子解析時の内部標準として使われることもあります。(Sは沈降係数を表します)

microRNA(マイクロRNA、miRNA)

microRNAは短い(21~25ヌクレオチド)長さの1本鎖RNAです。2001年に発見されて以降、遺伝子の発現量を巧みに調節する役割を果たしていることが明らかになっています。また細胞のがん化や神経疾患、精神疾患、血管の疾患など多くの疾患に関与していることもわかっており、バイオマーカーやコンパニオン診断や区の開発、また個別化医療のキーとなる核酸としても注目を浴びているRNAです。

近年は細胞外小胞であるエクソソーム内のRNAが、がんの増殖や転移などのメカニズムに関与していることから、エクソソーム内のmiRNAをターゲットとした新しいがんの検査方法や治療方法の開発が活発になっています。

エクソソーム内のRNAの解明と開発が進んでいけば、がんの早期発見と治療に光明が差すことになるでしょう。

lncRNA(ロングノンコーディングRNA、長鎖非翻訳RNA)

非翻訳性RNAのうち、200ヌクレオチド以上の長さのRNAをlncRNAと呼びます。2009年に6500個が発見されて以降も活発に研究が続き、現在はヒトにおいて20,000個以上ものlncRNA遺伝子と転写産物が存在することがわかっています。これは驚くべきことにヒトの遺伝子数よりも多い数です。

lncRNAは核内構造体を構築したり、翻訳後修飾など生体内で重要な役割を担っていたりすることがわかっていますが、lncRNAはmRNAと比べて発現量が低く、解析が困難なことが多いため、全貌の解明はまだまだ未知数です。しかし論文数は現在も増え続けている研究分野です。

また、lncRNAはX染色体の不活性化に関わっていることがわかっています。

ヒトの女性の性染色体はXX、男性はXYであるように、女性のゲノムにはX染色体が男性の2倍含まれています。この遺伝量の差を補正するために、女性のX染色体のうち1本を働かなくする機構をX染色体の不活性化と言います。この機構にlncRNAが関わっておりますが、このX染色体の不活性化が正常に働かないと、ターナー症候群(X0など、性染色体が一本足りない)やクラインフェルター症候群(XXYなど性染色体が多い)などの遺伝子疾患を起こす原因にもなります。

上記はlncRNAが関係している疾患のほんの一例で、他にもさまざまな疾患の治療法の確立に期待されています。

その他のncRNA

その他にも多くの種類の非翻訳RNAが見つかっています。

snRNA(small nuclear RNA)は選択的スプライシングとmRNA前駆体の保護に関与していることが示唆されています。多くのヒト遺伝子疾患が選択的スプライシングの調節異常によって引き起こされることがわかっており、snRNAの研究によって遺伝病を引き起こす原因解明への貢献が期待されます。

snoRNA(small nucleolar RNA)は、リボソームRNAを作ったり、核酸の修飾などに関わっています。タンパク質と結合して核内の核小体に局在しており、テロメアの合成を行うテロメラーゼにもsnoRNAが含まれています。

これらの他にも、シグナル認識複合体と呼ばれるSRP RNA、核酸医薬にも使われているsiRNA、生殖細胞でゲノムDNAを守っているpiRNAなど、非翻訳性RNAにはたくさんの種類があります。これらの多くが何らかの疾患に関与してていることがわかってきていますが、多くの非翻訳性RNAの発現量は多くなく、メカニズムの全貌を明らかにするための研究が期待されています。

まとめ

RNAの名前、またその役割についてまとめました。

翻訳性/非翻訳性 RNA 役割
翻訳性 mRNA 遺伝情報を写し取り、3つ組暗号(コードン)でタンパク質合成の場となる
非翻訳性 tRNA mRNAからタンパク質が合成されるときに細胞質中にあるアミノ酸をリボソームへ運ぶ
rRNA タンパク質とともにリボソームを形成する
miRNA 遺伝子の発現制御、多くの疾患に関与
lncRNA 核内構造体の構築やエピジェネティクス制御、X染色体不活性化などに関与
snRNA、snoRNAなど 選択的スプライシングやテロメアの伸長に関与

非翻訳性RNAは遺伝子をコードせず、タンパク質を作ることもないRNAだからこそ、生体内で合成しやすく分解しやすいです。それゆえに生体内でも便利屋として多くの役割を担っ基礎から学ぶ遺伝子工学 第2版ており、最近の研究からもさまざまな疾患に関わっていることがわかっています。これらのメカニズムの究明は、人類が遺伝子疾患に打ち勝つ一助となっていくでしょう。

参考文献

  • 基礎から学ぶ遺伝子工学 第二版 田村 隆明  (著)
  • 高等学校 生物 第一学習社