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出生前診断の是非について

出生前診断の是非について

出生前診断を受けることによるメリットは多大なものがあると言えますが、一方では出産前に分かるからこそ赤ちゃんに対してどのような判断をするべきなのかを親に求められているとも言えるでしょう。

出生前診断のあり方ついて

出生前診断と言っても種類は様々です。位置づけとしては、広義的に妊娠中に実施される赤ちゃんの発育や異常の有無について調査をすることと定義づけられています。昨今において、胎児の異常を調べる検査は35歳以上の高齢出産の増加に伴い、より注目度を集めていると言えるでしょう。実際に、過去からの推移を鑑みると検査を受ける人は増加傾向にあると言えます。出生前診断を受けることによるメリットは、ダウン症などの染色体異常のほか、脳や心臓の異常などが出生前に分かると言った点です。

このように、出生前診断を受けることによるメリットは多大なものがあると言えますが、一方では出産前に分かるからこそ赤ちゃんに対してどのような判断をするべきなのかを親に求められているとも言えるでしょう。今後、政府を含めた各関係先において、より一層出生前診断についての議論を深める必要があると言えるでしょう。

出生前診断の実態について

前述したように、出生前診断では特定的な胎児の異常が発見できることから、非常にメリットが大きいと言えるでしょう。しかし、逆説的に言えば出産前に赤ちゃんが障害を持って生まれて来ることが分かってしまうのです。親として、赤ちゃんの幸せを願うことは必然と言えるでしょう。その思想の中で、果たして何人の親が赤ちゃんを産むと云う決断を下せるのでしょうか。

出生前診断で異常が見つかった場合において、適切なカウンセリングを受けていない場合が想定されます。認可施設においては、カウンセリングを受けられる体制が構築されているのですが、無認可施設においてはカウンセリングが受けられる体制が構築されていないところも存在します。そういった現状を背景として、親が安易に中絶が選んでしまうというリスクも潜んでいることは否めません。単純に親の価値観にのみ依存して命を選別している行為とも言えるでしょう。

また、母体保護法に照らし合わせると、胎児の異常を中絶の理由として認めていないことと解釈できるのです。では、なぜ中絶ができるのかと言うと、「母体の健康」という大義名分の元、拡大解釈されたうえで中絶されているのが実態となっています。こういった倫理的な問題も内包しているということをご理解いただいたうえで、NIPTによる出生前診断の受診有無について判断していただきたいと思います。

出生前診断の1つの手法として挙げられるNIPTについて

新型出生前診断(NIPT)は、母体の血液の中に包含されている胎児のDNA断片を分析することで、胎児の特定染色体疾患を調査できる手法となっています。
NIPTの正確名称は、無侵襲的出生前遺伝学的検査や母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査と称されています。既存の出生前診断である母体血清マーカーなどと比較して、近年新たに確立されつつある検査であることから新型出生前診断と称されているのです。この新型出生前診断(NIPT)では、具体的に次の3つの特定異常を調査することが可能です。

  1. ダウン症候群(21トリソミー)
  2. エドワーズ症候群(18トリソミー)
  3. パトー症候群(13トリソミー)

これら3つの合計値を考慮すると、実に胎児の染色体疾患における約7割もの数に達すると言われています。

この新型出生前診断(NIPT)の実績値としては、日本国内において2013年4月から2017年3月までの4年間で約49,000名もの妊婦さんが検査を受けられたとされています。

なお、海外においては上記3つ以外の疾患も調べることができる国も存在しますが、本日現在において日本国内では日本医学会および日本産科婦人科学会等の指針により、3つの疾患のみしか調査することができないと結論づけられています。

出生前診断において異常が発見された方の意見

ここまで、出生前診断についてご説明をさせて頂きましたが、実際に胎児に異常があると判断された妊婦さんはどのような気持ちだったのでしょうか。とある東京都に住む40代の女性の方の意見です。妊娠中だった2016年において、採血だけでおなかの赤ちゃんのダウン症などの可能性がわかる新型出生前診断(NIPT)のことを知り、検討された結果、受診する運びとなりました。

この女性は、単純に生まれてくる前の赤ちゃんの状態を正確に知ったうえで、検査結果が悪い方向のものだとしても現実を受け入れて出産されるつもりでした。しかし、「胎児の染色体数に異常のある可能性が高い」という検査結果を受けました。その後、別の検査を受診した結果、生まれて来る赤ちゃんはダウン症であると診断されたのです。その答えを聞いて、女性は非常に強い不安が押し寄せたと言います。

彼女は当時、務めている会社の仕事が重要な時期であり、非常に繁忙を極めていたと言います。そんな生活環境にある中で、実際に障害を持つ子供を無事に育てられるのかどうかに疑問を持つようになりました。自分一人ではできることにも限界がありますので、「ダウン症の子どもを育てる負担や受けられる支援」「夫婦ともに共働きを続けられるのか」「子どもが大きくなり、成人後の子供の生活はどうなるのか」などについて疑問を持っていましたが、出生前診断の検査を受けた医療機関では、彼女が満足いく答えをカウンセリングでは得られなかったと言います。結果、彼女は仕事と養育を両立させる自信が持てず、悩んだ末に中絶を選ぶこととなりました。結果論となりますが、彼女は「検査を受けなければ、ダウン症を受け入れて育てていたかも知れない」と振り返っています。

出生前診断の今後の動向について

新型出生前診断(NIPT)は元来、日本産科婦人科学会(日産婦)や日本医学会などを含む関連5団体において、適切な遺伝カウンセリングができる体制が構築されているといった条件を満たし、認定を受けた医療機関のみで実施すると一定結論付けています。この背景には、妊婦さんが胎児の中絶という非常に重要な決断を伴う場合が想定されることから、不適切に新型出生前診断(NIPT)の受診が拡散すると、ダウン症の人などへの差別につながりかねないとの判断からです。

しかし、DNA解析は検査会社が行い、医療機関はカウンセリング以外は採血だけで済むため、2016年から認定外の医療機関も新型出生前診断(NIPT)を実施するようになりました。2016年以降、認定施設における新型出生前診断(NIPT)実施件数は減少傾向であり、相当数の妊婦が認定外施設で受けている実態があります。認定外の医療機関で検査を受けた妊婦さんには、検査結果が郵送で送付されるのみで適切な説明を受けられないケースも多分に存在しています。

日本産科婦人科学会(日産婦)はこうした状態を懸案事項として認識しており、産婦人科クリニックなども新型出生前診断(NIPT)を実施できるように、実施施設の認定要件を緩和する指針案を作成するに至りました。常勤の小児科医がいることなどを条件とする認定要件ではクリニックが認定を受けるのが困難となっているからです。これに対し、日本小児科学会などは「子どもの代弁者である小児科医の関与が不十分」といった反論を打ち出しています。これらの現状を打開すべく、政府としては厚生労働省が懸案事項解消に向けて介入し、専門委員会を設置し、新型出生前診断(NIPT)のあり方について議論を始めることとなりました。このように、今後において新型出生前診断(NIPT)についてより深く検討の深度が深められることが想定されます。

参考文献